北山猛邦 『アリス・ミラー城』殺人事件

 ■ "探偵"+"密室"="?"。 大胆にして緻密、それが一番の「倒錯」。 ■

鏡の中は倒錯の世界。 「犯人を示す手がかりに、気づくな・調べるな・考えるな」・・・

トリックに定評がある作者による、『鏡の国のアリス』味の『そして誰も居なくなった』。
北山猛邦著 『『アリス・ミラー城』殺人事件』は、そんな不思議な物語だ。

おれの独断と偏見によると、楽しみを享受できる読者はこのような感じだ。




不思議の国だけじゃなくて、鏡の国にもアリスは行っていたんですか?
鏡の中だと倒錯の世界なので、不条理が理に適っていて推理好きには魅力的である、と。

ストーリーを紹介して貰えますか、Mr.村田?


うむ。 簡単に説明すれば、こうだ。

【ルイス・キャロルの作品、「鏡の国のアリス」に由来する城を買い上げた。
 そこにあるという『アリス・ミラー』を探し出して欲しい】・・・
探偵たちが集められた理由は、そんな鏡探しのはずだった。

しかし、まるで推理を生業としてきた彼らをあざ笑うかのように、
一人・・・また一人と不可能状況で殺害されていく探偵たち。
その象徴として、遊戯室のチェス盤からは駒が一つずつ消されてゆく・・・!!


密室、消失、バラバラ殺人・・・ これは彼らへの挑戦か?
手練れの探偵たちを手に掛けてゆく犯人の目的はいかに?

倒錯に満ちた『アリス・ミラー城』で、真相を論破できるのは誰なのかッ!?  

なるほど、探偵の前で不可能状況にて殺人を犯すとは、よほど自信があるのでしょうね。
いかにも解いて下さいと言わんばかりです。

犯人と探偵との知恵比べ、みたいな展開が想像できますね。


そうだな。 まずテーマとして終始『倒錯』が貫かれているのが素晴らしい。
よくぞここまで、これを貫き通したと感じさせる徹底ぶりだ。

鏡の国のアリスで描かれる鏡の世界では、すべての物事が逆転している・・・
例えば、喉が渇いたらカロリーメイトのようなパサパサの食料を食べる必要があるし、
お金を払って仕事をしなければならない、といったようにな。

この物語はそれをストーリーに展開することで、不条理だが心地よい各種設定として使っている。
普通の推理小説ならば「手段」の部分を「目的」としたり、
通常「禁忌」であるものを「常套」として扱う・・・
一つの姿勢を貫徹することでこそ、そうした面白い着眼が可能になっているのだな。


なるほど、学校の試験前の夜中勉強すればするほど点数が下がるのと似ているな。
いや、だが鏡の国ではすればするほど点数が上がるのか?

とにかく、常識の範囲に捕らわれずに書かれているということなのだな。


その通り。 換言すれば、密室殺人、不可能犯罪といった「お約束」の状況、そして犯人当て・・・
また作者が得意とする物理トリックなど、推理小説的な常識があるほど楽しめるだろう。
是非、「十角館の殺人」辺りを事前に読んでおくことをお奨めする。

しかし、それはこの物語の魅力の片割れに過ぎない。
チェスの駒が一つずつ無くなっていくことで殺人が示唆され・・・
それを増えたり減ったりする扉といった、舞台特有の不可思議な仕掛けが増幅する。
こうしたサバイバルホラーと、推理、メルヘンが綯(な)い交ぜにまって押し寄せる感覚こそが魅力なのだ。

得てして推理小説はリアリティや情緒などの点で難癖を付けられるものだが、 この感覚を前にしてそれらによる反駁は意味を成さないことに気付かされるだろう。


確かに、おとぎ話の設定に真面目にいちいち難癖を付けてたら、それこそ馬鹿みたいな話です。
少年漫画に1ページ毎にツッコミを入れて読むのと同じくらい、時間の浪費ですものね。

純粋に面白いかどうかは、リアリティや情緒によって決まるのではない・・・
当たり前のことですが、忘れがちなことですね。


うむ。 その意味では、子供の方が面白いかどうかを正当にジャッジできているのだな。
これは推理を通して、子供心に訴える物語と言えるのかも知れん。
これで「チーム・ゴルボンズ」は、

人類の叡智を、また一つ獲得したッ!!

うむッ!!

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