笹井潔 「梟の巨なる黄昏」

 ■ 他人の不幸は蜜の味? じんわり来るホラー。 ■

他人を不幸にして自分が幸せになる・・・ その気持ちを増幅させる魔書。

最早フィクションとさえ言えないかも知れないが、そんな本が巡り巡る短編集だ。
笠井潔著 『梟の巨なる黄昏』

おれの独断と偏見によると、楽しみを享受できる読者の傾向はこのような感じだ。




確かに、攻撃する対象を社会全体で探し続けている感じがするが・・・
スリルあるサスペンスではなく、あくまで落ち着いたサイコホラーなのだな。

それで、どんなストーリーなのだ?


簡単に説明すれば、こうだ。

異端の作家である神代豊比古の遺した長編、「梟の巨なる黄昏」。
それは、人が密かに抱いている黒い願望を増幅する、禁断の書だった。

ひょんなことから魔書を手に入れた作家、布施朋之は創作活動に没頭し始める・・・。
しかしそれには、妻と子供という邪魔な存在があった。

脳裏に「その衝動」が芽生えたとき、魔書は語りかける。
あたかも、仕掛けられた時限爆弾のように・・・!!
「殺せ、殺せ、殺せ」―――!!


妻と子供を連れだし、ドライブに出かけた布施・・・。
その目的は勿論、家族サービスではなく彼らの殺害だった。


ところが、彼は知らなかった。 もっと大きな殺意が彼を待つことを・・・!!  

持つと無性に人を殺したくなる魔書・・・
デスノートの自己完結版みたいな感じか。
なかなか面白そうではないか。


うむ。 全編を通して溢れているのは、人間の醜悪さだ。
実はこの物語の随所で、魔書は人間を試している・・・というか、
選択を迫っていると思う。

しかしそこで見え隠れするのは、
「他人を蹴落としてでも、自分だけは幸福に与(あずか)りたい」・・・
そんな思いだったりするのだな。
それが人間臭いと言えば人間臭いわけだが、そんなメンタリティでは 当然ハッピーエンドに話が向かうはずもない・・・。

きちんと因果応報の罰が待っている訳で、何となくモダンな 「蜘蛛の糸」(芥川龍之介)という感じを受けた。
「糸」に相当する、小道具の数々の使い方も上手だ。


それがリアルか、って言われると微妙な感じがしますけどね・・・。
現実には、他人を蹴落とした者が栄華を極めている気がします。

受験戦争しかり、政権争いしかりでしょう?


確かにな。 だが、この作品で決定的にリアルなものが一つだけある。
それは、人間の狂気へ至る思考の筋道だ。

現状置かれている状況を子細に分析して、その原因に行き着く。
その原因となるものを排除したいが、その際のリスクとリターンはどうか?
リターンが上回るなら・・・ 誰が何と言おうとそれを実行すべきだ!

そう、支離滅裂だから狂気なのではない・・・。
理路整然としていて、周囲とかけ離れることが狂気なのだ。

これはフィクションでも何でもない、人が道を踏み外す時の縮図そのものではないか。
「魔書」は触媒に過ぎない、ブレーキが利かなくなる人の心理こそを恐れるべきだ、 そうこの物語は告げているのだ。


なるほどな、魔書が無くても犯罪を犯す人間は後を絶たないものな。
むしろ、増加の一途を辿っているくらいだ。

誰の心の中にもある「闇」のトリガーは魔書だけとは限らない・・・。
それが、この物語の真のホラー部分ということか。


そうだな、フィクションの形を借りた、社会への警鐘なのかも知れん・・・。
これで「チーム・ゴルボンズ」は、

人類の叡智を、また一つ獲得したッ!!

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うむッ!!