西澤保彦 「異邦人 fusion」

 ■ SF+推理+レズビアニズム。好きなモノあげつらっただけ? ■

憧れのあの人と、過去に戻ってやり直したい・・・

淡い気持ちにレズビアニズムを混ぜて、SFと推理で 味付けをした作品がこれだ。
西澤保彦著 『異邦人』・・・ めっぽう暗い主人公の物語は、恐らく読者を選ぶだろう。

おれの独断と偏見によると、楽しみを享受できる読者の傾向はこのような感じだ。




「♪子供達が 空に向かい・・・」という久保田早紀の有名な曲とは無関係なのだな。
何だか、その根暗な主人公のためかお薦めの読者層は狭いみたいだな。

ストーリーを紹介してくれ、村田!


うむ。 簡単に説明すれば、こうだ。

20世紀最後の日。空港でのデジャ・ヴュから、全てが始まった。
一時間のフライトを追え、空港に降り立った影二は、そこが 過去の世界に変わっていることに気付く。
呼び起こされる、「女に生まれて来れば良かった」という思い・・・
それは、同性しか愛せない姉、美保の愛情を独占していた季里子への 嫉妬だった。

そして地元紙の日付から、その世界が23年前、そして父が 殺人事件に遭い殺害された日の4日前であることを知るのだった。
犯人が煙のように消えた、奇妙な事件だった・・・。


父の急逝がきっかけになって、姉は不幸になった・・・
姉の幸せのために、姿見えぬ犯人を突き止めなくてはならない。

ターニング・ポイントに降り立った影二は、殺人を防げるのか・・・?!  

同姓しか愛せない姉への思い・・・ですか。
レズビアンに加えシスコンもプラスでネガティブ志向の主人公、 絶望的に好きになれないタイプですね。

何だか読んでてイライラしそうかも・・・。


そうなのだ・・・ まずそこに耐えられるかが一つの関門だし、 自分自身の設定した世界観の説明に終始している気がしてならない・・・。

過去に戻る作品ではいつも、「幼い頃の自分殺し」のような 「タイムパラドックス」が発生する。
それをどのように回避するのかが各作品での腕の見せ所な訳だが、 この作品では「都合が悪いものは消える世界である」という 設定で済まされてしまっているのだ。
何で?という部分にはまるで触れられていない。

例えば「凶器はどこへ消えたか?」というタイプの推理小説で、 オチが「特定の人は、手刀で人を切り刻むことのできる世界 だったから」だとしたら、それは面白いだろうか?


設定ですと言われれば返しようがないからな・・・。
というか、タイムマシンが使える世界なら、たいていの 完全犯罪は可能な気がするな。

ご都合主義的すぎるってことだろう。
村田の言いたいことが判る気がするぞ。


うむ。 そして、SF、推理、レズビアニズム・・・
好きなもの全部詰め込んで書きたかった、という 感じは伝わるが、 例えばレズビアニズムのことが熱く語られているわけではなし、 何だかどれを取っても中途半端な印象があるな。

個人的には、先の「タイムパラドックス」の問題の言い訳が 長すぎるからだと思うのだ。
別に後の世界に影響を与えるようなファクターが存在を 許されたっていいと思うし、「過去の自分」が影響した 「未来の自分」が、再び「過去の自分」にフィードバックする・・・
そこで「今の自分」が徐々にループして変わってきた過去を 推理する・・・
といった面白い小説に出来るんじゃないかと思ったりしたな。


「今までの自分のターニング・ポイントで、未来の自分が働きかけた兆候があるか?
今後不幸になったなら、どこまで戻って、どんな選択をして、どう記録していけばいいか?」
を考える・・・そんなストーリーになりそうですね。


「未来の自分が姿を見せないことから、今後もタイムマシンは実現されない」という 夢のない話になる可能性が高いがな。
・・・これで我々は、

人類の叡智を、また一つ獲得したッ!!

うむッ!!

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