二階堂黎人 「地獄の奇術師」

 ■ おどろおどろしさMAX・・・でも手を広げすぎ&狙いすぎかも? ■

生暖かいような不気味さ・・・まとわりつく怪奇・・・

幽霊や死体ではなく、これは生身の人間の怖さだ。それを、推理で切り解く・・・
二階堂黎人著 『地獄の奇術師』は、そんな物語だ。

おれの独断と偏見によると、楽しみを享受できる読者の傾向はこのような感じだ。




謎解きがとりわけ好きでなければお勧めしない・・・ということですね。
そして恐らくは、『血まみれの殺人現場』のような、不気味な 場面を嫌う人間にも不向きだと・・・。

どんな物語なのか、説明して貰えますか?


うむ。 簡単に説明すれば、こうだ。

戦地から戻った実業家の、成功の証としての邸宅・・・ その名も、『十字架屋敷』。

そこには、敬虔なカトリックの家系、暮林一族の大家族が 暮らしていた。
黎人、蘭子と共に推理小説が大好きな高校生三人組の一人、 暮林英希も、勿論その家族の一員である。

最近この屋敷に、『ミイラのような包帯を顔中に巻き、 黒色のコートの人物』が出没するようになっていた。
その人物にばったり遭遇した高校生三人組であったが、 『地獄の奇術師』と名乗るこの人物は、三人組の前で 「復讐のため、暮林一家を皆殺しにする」と予告した。


死へのカウント・ダウンを象徴するように、十字架屋敷には 着々と数字の減っていくトランプのカードが届けられる・・・!!
高校生三人組は、『地獄の奇術師』の連続殺人に歯止めを 掛ける事ができるのか・・・?!

そして、この神出鬼没な殺人鬼の正体を暴くことが出来るのかッ!?  

なるほど、テーマは『皆殺しの恐怖から、仲間の一家を守れ』!!
面白そうな設定じゃないですか。

分析した内容を教えて頂けますか、Mr.村田?


まず、著者自身が売りとして挙げているのが、
『江戸川乱歩の怪奇』『カーの不可能犯罪』『ルブランの冒険劇』『クイーンの論理性』『奇矯な名探偵』 の五つだ。

この中で、特に作者の手腕を感じた部分を挙げるならば、
「江戸川乱歩ばりのおどろおどろしさが表現し切れている」 という点だ。

「地獄の奇術師」は度々姿を現すので、生身の人間であることは 明らかだ。
だからこそ、読んでいて背筋がぞっとするような怖さはない。
しかし、その殺害方法までも詳細に描写がなされることで、 無言電話が繰り返し掛かってきたときのような気味の悪さ が伝わってくるのだ!!
そういう雰囲気が好きな人には、特にお薦めだな。


なるほど、「生暖かいような不気味さ」とはそういうことか。
ストーカーの被害者なども同様の不気味さを感じていそうだな。

逆に、今一つと感じていることもあるんだろう?


うむ、先の五点の内どれが、という訳ではないのだが・・・。

「中途半端な冒険譚が、論理的な探偵気質と両立していない」 と思うのだ。
判りやすく言うと、犯人の犯行を論理立てて解き明かせるほど 頭のいい人間が、何でそんな向こう見ずなの?と 突っ込みたくなること請け合いということだ。

勿論、高校生なりの不安定さ、などと説明を付ければそれまでだが、 探偵一人に多くの役割を負担させすぎだろう。
例えば行動派と頭脳派など、他の登場人物に役割分担すれば もっと良かったかもしれない。

そして、両立と言えばその他の「売り」に関しても今一つかな。
本文中に多すぎる注釈も、思い入れの強さは伝わるが本筋とは 関係ないものばかりだし、多くの要素を狙いすぎて訴えたいことが ぼけてしまっている感がある。


なるほどな、会社の仕事もそうだが、手広くやり過ぎると どれもが中途半端になってうまくいかない。
船頭多くして船山に上るってやつだな。


うむ、「写真は引き算だ」と言われることがあるが、 「小説も引き算」と言えるかも知れないな。
とにかく、これで「チーム・ゴルボンズ」は、

人類の叡智を、また一つ獲得したッ!!

うむッ!!

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