神山裕右 「カタコンベ」

 ■ 静かに迫り来るデッド・リミット。前代未聞の洞窟内ミステリー。 ■

舞台は常に洞窟内。そんな物語が、何故こんなに盛り上がるのか・・・。

ゾンビ映画のような辛気臭いタイトルとは裏腹に・・・
神山裕右著 『カタコンベ』 は、そんな印象を抱く物語だ。

おれの独断と偏見によると、楽しみを享受できる読者はこのような感じだ。




謎解き重視と言うよりは、ドラマ仕立てという感じの小説なんですね。
ちょっとしたTVドラマが好きな人にはより一層お薦め、ってところですか。

・・・それで、どういう話なんですか、Mr.村田?


うむ。 簡単に説明すれば、こうだ。

新潟県マイコミ平は、登山家からも裏秘境と呼ばれるほど未開の洞窟の点在する地。
そこで発見された、前人未到の鍾乳洞の調査が、ケイビングクラブ主査で行われようとしていた。
大学院生の弥生も、指導教官の柳原により勧誘を受け参加を決意する。

当日、雨が降るとの予測から中止すべきという意見を却下し、調査は開始される。
ところが竪穴を下っている所で落盤事故が発生し、弥生を含めたケイバー5名は 洞窟内に閉じ込められてしまう・・・!!

大雨が降り注げば、ドリーネに流れ込んだ水が一帯の洞窟を水没させてしまう。
手をこまねく経営陣をのけて、弥生の父がかつて助けた青年・東馬は 今度は自分が弥生を助けるとばかりに単身救出に向かうのであった。
しかし水没までのタイムリミットは、5時間しかない・・・!


東馬は無事、ケイバーたちを助けることが出来るのか?
そして、全員で無事に帰ることができるのか?!

・・・暗く、狭く、短いッ! この極限サバイバルの行方はいかにッ?!  

水没までの時間は僅かしかない。
その間に、5人を助け出せ・・・か。

確かに、パニック映画でありそうな設定だな。


確かに映画的だ。 ・・・そして映画的な、極めて平凡なストーリー展開でもある。

作品のテーマは、『生への執着を持て』といった所だろうか。
予想が付くと思うが、洞窟に入ってスンナリ5人を救出、とは勿論いかない。
途中に幾多のハプニングがあって、何度も命の危機に晒されることになる。

そこで不満点は、王道のレールに乗ったように物語が一直線であること・・・
言い換えればサプライズ要素が決定的にない点なのだ。
数々のハプニングも起こるべくして起こる感じだし、 せっかくのドラマチックな展開も何となく先が読めてしまう。

そのため、メッセージ性としては強くない。


確かに、映画でも王道パターンってあるよな。
「俺、生きて帰れたら小さい料理屋でもやるよ」
的な、将来の夢を語る友人は必ず死ぬ・・・ とか。

そんなノリだと言いたいのだな。


まさしくその通り。 しかし勿論、それだけで掃いて捨てるには惜しい作品でもある。

舞台が限られていると、材料切れでパワーダウンする作品が多い中、
ずっと洞窟内という味気ない舞台なのに、最後までだらだらした展開にならない
これは作者の技量だろう。 その理由としては、主に二つだと思う。

まず一つ目は、「小道具の使い方の巧さ」だ。
この物語ではケイビング特有の道具が頻繁に登場する。
殺人方法・トリックに至るまで、 『この道具はこういう使い方ができる』と示すことで、 生きた素材として使っている。

そして二つ目は、「終盤の構成の面白さ」だな。
主人公と犯人の行動を僅かずつずらして時系列にし、 シリトリのように物語が進行していく。
主人公と犯人の、それぞれの行動に対する反応が判って、 臨場感が出ていた。


波状攻撃的な書き方、ということですね。
一人称小説では主人公と犯人の行動を同時に書くことは出来ませんから・・・
パソコンのCPUの処理みたいに、素早く両者を切り替えて同時に見せる、 っていう手法が最適なのかも知れません。


なるほど、小説でのマルチタスクか。 なかなか巧いことを言う・・・

これで「チーム・ゴルボンズ」は、

人類の叡智を、また一つ獲得したッ!!

うむッ!!

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