岡島二人 「クラインの壺」

 ■ 現実を100%のシミュレーションするゲームは、仮想と呼べるか? ■

我々の見聞きしているのが、実はコンピュータの作った幻だとしたら・・・?

岡島二人著 『クラインの壺』 は、そんな「マトリックス」のような世界観を・・・
まだwindowsさえない時代に、既に考えていた作者達による作品だ。

おれの独断と偏見によると、楽しみを享受できる読者はこのような感じだ。




確か、「クラインの壺」は数学用語だったはずだが・・・
これを見ると、それほど数学的な教養は必要ないようだな。

・・・して、その内容とはどんなものなのだ?


うむ。 簡単に説明すれば、こうだ。

謎の企業、イプシロン・プロジェクトが開発するゲーム・・・『Klein2』。
それは、視覚、聴覚、触覚といった五感を始め、温覚、痛覚といった感覚まで、 現実世界のありとあらゆる感覚を100%シミュレートする夢のようなゲームだった。

このゲームの原作として、大学生 上杉彰彦の『ブレイン・シンドローム』が採用された。
彼は200万円を手にし、更にテストプレーヤーとして、その製作に携わる事になる。
自身の作品の世界を、実際に主人公となって闊歩する感動・・・
そして同じテストプレーヤーの美少女 梨紗とも気が合い、彼は幸福の絶頂に居た。

しかし突如、ゲーム内で「戻れ」という警告が彼の脳裏に響く・・・
そして、ある日を境に梨紗が行方不明となった事に、彼は違和感を抱き始める。


梨紗は、未完成の『Klein2』の事故で、犠牲となってしまったのか・・・?!
そしてそもそも、『Klein2』は、ただのアミューズメント・ゲームなのか・・・?!

イプシロンの謎を追って深みに嵌まっていく彼は、遂に警告の意味を知ることになる・・・!!  

すると、レースゲームをやればビュンビュン風を切っていく感触が味わえるし・・・
格闘ゲームをやれば、かめはめ波を実際に手から出したりできるってことか。
何て夢のあるストーリーだ! これは聞き捨てならない!!


そう、この作品を読んでまず気付くのは、 世界観がリアルで、自分までゲームしている気分になることだ。
こんなゲームが出来たら、絶対プレイしてみたい・・・ そう思わせるだけの力がある。

勿論作者の筆の上手さもあるだろうが、その秘密は間違いなく、細部の作り込みにある。
ゲームマシン一つ取っても、最初に視度(視力)の調整をしなければならないなど、非常な凝りようだ。
これは考えに考え抜いて、マシンのイメージを膨らませなければ出来ない芸当だ。
この作品を書いたとき、作者達はネジの一部品に至るまでをイメージ出来たに違いない。

そしてこれらの設定は、Windowsさえない時代に考えられ、未だに実現されていない所が素晴らしい。
例えば現在発売されているゲームで、実際に五感に訴える物が増えてきているが 確実にこの作品で描かれる「現実と区別できないゲーム」という方向に進んでいるのは確かだ。
いかに作者達の考えが進んでいたのかがよく判るというものだ。


ああ、例えばWiiのスポーツをやるゲームだったり、ボードの上で波乗りしたりするのがそれだな。
いや、プレステのコントローラがゲームキャラの受けた衝撃に合わせてブルブル震えるのもそうかもな。

コントローラで操作するだけのゲームでは、皆が満足出来なくなってきた、ということでもあるが。


うむ。 ただシナリオ面に関しては、もう少し捻って欲しかったな。

もっとショッキングな構成なら面白かったのに、という印象が少なからずある。
残念ながら後半の展開は何となく読めてしまうので、前半が面白いだけに勿体無いと思った。

考えてみると、各所の伏線があからさま過ぎるのがその原因だと思う。
例えば途中に入る、主人公が些細な違和感から謎を暴くエピソードでも、 ちょっとヒント与えすぎ、答えも早く出しすぎ、という感じがする。
性急な人間には嬉しいのかも知れないが、この作品に関しては 肝の部分が生きてこない点で難ありだろう。

むしろ、謎を最後まで引っぱった方が面白い構成になったのでは、というのが正直な所だ。
主人公が結論を出してしまうのではなく、「最後は読者に謎を考えさせる」話にするとかな。
その意味で、主人公の手記で始まる必要も、この終わり方である必要もないと思った。


ディテールにこだわる作者達だから、伏線も念入りに書いてしまったのかも知れないですね。
或いは、インパクトよりもゲームの臨場感を感じて欲しかった・・・とか?

だけど「現実と区別出来ないゲーム」って、それはそれで怖い話ですよね。
ゲームだから良いとの理由で、人間の後ろ暗い部分の捌け口にされそうです
殺人も強姦も横行して、法も秩序もなくなるでしょうね。


絶対そうなるな。 既に、そういう時代になりつつあるのかも知れんが・・・。
とにかく、これで「チーム・ゴルボンズ」は、

人類の叡智を、また一つ獲得したッ!!

うむッ!!

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