矢野龍王 「極限推理コロシアム」

 ■ 命懸けの謎解き競争の設定が秀逸。ただ、推理部分はイマイチかも。 ■

要らないものをことごとく取り去って、エンタテインメントだけ残した・・・

ページを開いた瞬間から待たされることなしに本題が始まり、そして物語はずっと同じ舞台、同じ人間同士。
矢野龍王著 『極限推理コロシアム』は、まさにそんな物語と言えるだろう。

おれの独断と偏見によると、楽しみを享受できる読者の傾向はこのような感じだ。




なるほど・・・ まさに「エンタテインメント作品」というわけですね。
しかし、極限"推理"とある割には、謎解きを愛するという人間の嗜好からは外れているみたいですね。

これは一体どういう物語ですか?


うむ。 簡単に説明すれば、こうだ。

突如として、外界と接触を絶たれた館に閉じ込められた7人の「プレイヤー」達。

これらの「プレイヤー」達に課されたのは、もう一つの館に閉じ込められた7人の 「プレイヤー」達よりも早く、館で自分達の間に発生する殺人事件の犯人を当てる事だった。
しかも、自分達の館の事件の犯人一人だけを当てれば良いのではなく、 もう一つの館での事件の犯人も合わせて指摘しなければならない。

殺人事件の被害者として、一人、二人と人物が減っていく中で、「プレイヤー」達は衛星を駆使し、 相手との心理戦を繰り広げる・・・


相手に先に犯人を指摘されたり、時間内に正解できなかったりすれば、待っているのは不条理な「死」!
極限的な心理状況下で、駒形祥一達は犯人を指摘し、サバイバルゲームを制する事が出来るのか?!

・・・そして、不条理の館から、元の生活を取り戻せるのかッ?!  

死と隣り合わせの状況での頭脳戦・・・ そして自分も被害者となりうる事件。
なるほど、まさにサバイバル推理!

まるで時限爆弾解体のようなスリルが溢れる、面白いストーリーではないか!


その通り。 この舞台設定が、敬意を表するほどに秀逸だと思うのだ。

単にもう一つの館があるだけなら、主人公が『安楽椅子探偵』兼『事件の当事者』というだけの、 訳の分からない物語に終始してしまっただろう。
だがここに『競争で推理を行う』という要素を持ち込むことで状況が一変する。

両方の館の事件の犯人を、相手より先に指摘しなければならないのだから、 衛星で繋がれた相手に対し 「いかにすれば自分達の館の事件を明かさず、相手の館の事件の情報が得られるか?」 が重要となる・・・
そんな要素が加わるというわけだ。

この状況設定から成る一連の駆け引きが、非常に面白いと思う。


確かに、麻雀やトランプの勝負でよくある、腹の探り合いですね。
わざと偽情報を流して相手を攪乱したり、本当の情報をさも嘘っぽく流したり。

そんな駆け引きが実際にあっても面白そうです。


うむ、ただ惜しむらくは、巧みな状況設定を活かしているとは思えない"謎解き"なのだ。
「感情移入が出来ない」とかの酷評もあるようだが、エンターテインメントとしては悪くない。

タイトルで推理を前面に出してしまったのが失敗だろう。
むしろ『推理』と銘打たず、上記の駆け引きメインで書いて欲しいくらいだと、おれは思った。
肝心の謎解きの部分は、お堅いロジック重視のパズラーでなくても 「その手がかりから、そういう結論はないだろう!!」 と言いたくなる唐突さだし、ある意味、こんな設定など必要なかった(初めから解けた)と 言えてしまう類のものなのだ。

例えば、同じ館内の人間が一人殺される毎に"謎解き"のヒントが現れるなどといった形にしたら、 話が進行する度に『手札』が増えて駆け引きも面白くなるし、"謎解き"の唐突さもなかったのでは・・・
と思った。


そうすると、ヒント欲しさに他の人を殺し始める人も出てきたりして・・・。
何だか、ゲーム理論の「囚人のパラドックス」みたいな話ですね。
相手を信頼し続けるのがいいのか、さっさと裏切るのがいいのか・・・。


そう、そんな人間臭さをもっと全面に出すことで、設定が生きる気がするな。
これで「チーム・ゴルボンズ」は、

人類の叡智を、また一つ獲得したッ!!

うむッ!!

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