今邑彩 「繭の密室」

 ■ イヤミな要素一切なし。明快な入門ミステリー。 ■

人間、誰しもリスクを避け現状に留まろうとする・・・これも密室ではないのか?

今邑彩著 『繭の密室』は、貴島刑事シリーズ第三作目の推理小説だ。
リアリティに関していえば突っ込み所が満載だが、抜群の読みやすさであっという間に読める一品だ。

おれの独断と偏見によると、楽しみを享受できる読者の傾向はこのような感じだ。




なるほどな、大きな特徴として「難しくなく、読みやすい」という事か。
「青虫ジョンが繭の中で毛虫のトムに殺されたんだ・・・。」なんて話ではなさそうだな。

・・・して、どういう話なのだ?


うむ。 簡単に説明すれば、こうだ。

静寂を切り裂いたのは、誘拐事件に次ぐ都内マンションの 謎の転落死事件だった・・・

死体の状況から被害者の大学生、前島博和が何者かに襲われた 痕跡は明らかで、マンション7階の自室から突き落とされたと 考えられた。
しかし、その部屋のドアにはチェーン錠が掛かっており、 部屋は完全に密室であった!!

貴島刑事と倉田刑事がこの事件の手掛かりを追い、 被害者のミッシング・リンクを辿ってゆくと、事件の発端が6年前の怪事件に あった事が次第に明らかになっていく・・・


犯人は、如何にして密室となったマンションの一室から 抜け出したのか?!
そして、6年前の怪事件、誘拐事件、転落死事件・・・  全てを繋ぐ鍵は何か・・・?!

・・・全ての謎が明らかになったとき、そこには驚愕の真実がッ!!  

薄手の小説なのに、扱っている内容は盛り沢山なんですね。
なかなか面白そうです。

分析内容を教えて頂けますか、Mr.村田?


うむ、この物語はいわゆる「謎解き」を重視したものではない。
長編推理小説と銘打ってあるが、推理『小説』という感じで、 刑事が足で情報をかき集め、徐々に謎を詰めて行く刑事物語だ。

そして、可能性を一つずつ検証していくタイプの、リアリティ溢れる 刑事物語でもない
各場面でのご都合主義的な展開に、「そんなのあり?」 と いった議論は避けられないだろうと思うし、強引にこじつけた感を 不満に思う人も少なくはないと思う。

しかしこの「ツッコんで下さい、と言わんばかりのリアリティのなさ」 を受け入れる事と引き換えに、読み進めていくほど明らかになる 「気持ち良く"騙された感じ"を与える、不思議なトリック」 は、大きな特長と言えるだろう!
言わば、貴島刑事達は勿論、読者自身も、作者の不意打ちを 体験することとなる。


なるほど、多少強引であると思えるのも「それを伝えようとする 意思があるから」ですものね。

リアリティのなさをむしろ「作家が物語の面白さを出すために、 積極的に創作の自由度を上げたのだ」として受け入れることが できないで、何の読者ですか!


その通り。 そして勿論、この物語の最大の魅力として 「極めて明解な文章と親切な構成で、非常に読み易い」 という点を、忘れてはならないッ!!

特にインテリぶった作者にありがちな「回りくどくて 嫌味たらしい表現」のない、明解な文章は大いに見習いたい。
余計な贅肉を落とした、すっきりとまとまった文章と いう感じだな。
また、よく「登場人物の名前が覚えきれないので、 小説は読まない」という意見があったりもするが、 それもこの物語においては心配無用だ。

なぜなら一度に登場する人物は一人か二人、そして暫くは これらの人物に関しての話が進むという、親切な構成に なっているためだ。
要は、作者が言いたい事を伝える時に、読者が煩わしい思いを しそうな箇所が徹底的に取り除かれている、ということだ。
この、最上級の読者配慮の姿勢には脱帽するッ!


強引なこじつけでで煙に巻いている小説など沢山ありそうだ。

話が出来すぎていても素直に伝える・・・ 大事なことかも知れん。
リアリティが無いと思えるのは、まずは文章に伝える力があってこそだからな。


お粥は、病人でも食べられるほど消化が良く、胃腸に優しい・・・
そんな感じの文章と言えよう!(「粥の密室」とか、寒いこと言わないように)

これで「チーム・ゴルボンズ」は、

人類の叡智を、また一つ獲得したッ!!

うむッ!!

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