島田荘司 「眩暈」

 ■ 知らないということは恐ろしい。身近な事象の裏を知れ! ■

「これまであなたが見てきた、一番大きな影は何の影か?」

『都庁ビル』、『富士山』といったナンセンスな答えしか 思い浮かばないなら、是非手に取るべき物語だ。
島田荘司著 『眩暈(めまい)』

おれの独断と偏見によると、楽しみを享受できる読者の傾向はこのような感じだ。




ややっ?! おれの記憶している限り、『占星術殺人事件』とはまるで 逆の読者層ではないか。
当然、謎解きを愛する人間にとってのお薦め度が大だと 思っていたのだが・・・。

・・・内容を説明してくれ、村田。


簡単に説明すれば、こうだ。

『占星術殺人事件』を愛読する青年の手記には、 驚愕の内容が綴られていた。

― 『今日ですべてが終わりだ』って、知ってる? ―

自分の父が演じる、核戦争で世界が荒廃した大地へと 変わってしまう映画のタイトルを口にした瞬間、 全ての日常が変わった。

"部屋の外には映画と同じく荒涼の地へと変貌してしまった 世界が広がり、僅かに生き残った人達とも言葉が 通じなくなってしまった・・・!!
更にそんな絶望的な世界で、切断した男女の死体を前に、 愛読の『占星術殺人事件』で覚えた呪文を唱えると、 その死体が合成され両性具有者として蘇った ・・・!!"


精神異常者が書いたとしか思えないこの手記を、 かの御手洗探偵は事実と信じて疑わない・・・?!
これは奇人の絵空事か、それとも事実の記録かッ?!


・・・この手記に込められた重要な意味とはいかにッ?!  

滅んだ世界で、死体が合成されて蘇った?!
それが事実だとしたら、一体全体、どういう話だって言うんです?
それは気になって仕方ないですね!

いつも通り、分析内容をお願いします、Mr.村田。


まず、この奇人が書いたような手記に俄然おれたちは興味を 持つ訳だが、最大の魅力として
「自分の視界の狭さに気づかされるトリック」を挙げておく。

・・・いかに"一般的な"人間の視界が狭いかを示す例として冒頭の問題を提示した。
恐らく、すぐに答えられる人間はそう多くないだろう。
多くの人にとっての正解は、『地球』の影・・・
すなわち『』という、目の前のもので あるにも関わらずだ。

こうした、「狭い視野が考えるのを遮っている」事象に、目を 開かせてくれるに違いない。
そして、それに目を向けずにいることが、いかに危険なことであるかもな。


なるほど、この物語では謎を解いて見せろと言うよりも、
『"日常"が作り出す罠に気付け』 というのが著者の意図なんだろう。

気付けば焼いていないのに『カップ焼きそば』という名前も、 気付けば安易に受け入れてしまっている!


なかなか的を射ている。そう、「日常の盲点に気づかされる」という事に他ならない。

しかしそれは裏返せば、『占星術殺人事件』であったような、 ハッと息を呑むような一大トリックは存在しない ということの裏返しだ。
従って、前作と同じノリを期待すると、大きな肩透かしを 食らった感が残る点で、この物語は損をしていると思う。
エビ天丼を注文したら、何故かおばちゃんが石焼ビビンバを 運んできた時のような違和感は拭えないだろう。

『謎が全て解かれていない』といった酷評もあるようだが、 そうではない・・・ 推理の根拠が薄過ぎるのだ。
『(A)ならば(B)』の形の解決がなされている中で、 『なぜ(A)が正しいのか?』については語られていないのだ。
そのため、何となく強引に納得させられてしまった感じが残る


なるほど、日常に溺れると全てが『当たり前』に なってしまう事への警鐘・・・
それなら、推理も「当たり前」は無しにして欲しい・・・
という感じでしょうか?


まぁ、この非日常的で強引な感じが、作者らしいと言えば「らしい」とも言えるがな・・・。
これで「チーム・ゴルボンズ」は、

人類の叡智を、また一つ獲得したッ!!

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うむッ!!