殊能将之 「美濃牛」

 ■ 奇跡の泉にまつわる謎と陰謀、解き明かすは食えない探偵 ■

わらべ唄になぞらえて起こる、殺人事件の謎を解け・・・!!

最早使い古された設定と侮(あなど)る事なかれ。
殊能将之著 『美濃牛』 は、タイトルからは想像出来ないほど魅力に満ちた物語だ。

おれの独断と偏見によると、楽しみを享受できる読者はこのような感じだ。




随分分厚い物語のようですが、謎解き要素も満載であると。
少年漫画好きにオススメというのはきっと、「見た目は子供」的なアレ・・・ですよね?

・・・それで、どういう話なんですか、Mr.村田?


うむ。 簡単に説明すれば、こうだ。

末期癌さえも治す「奇跡の泉」があるという岐阜県の鍾乳洞、亀恩洞(きおんどう)。
カメラマン町田と共に泉の取材に向かったライターの天瀬だったが、彼はその非現実な企画にうんざりしていた。

ガイドを買って出た石動なる人物は信用ならないし、泉には現在、有刺鉄線が張られ入ることも叶わない。
いよいよもって帰ろうとした彼らを待っていたのは、別の意味での非現実・・・
首を切り落とされた、領主の死体だった。

更に、彼らをあざ笑うかのように惨劇は相次ぐ。
一族を根絶やしにするまでそれは続けられるのか・・・!?


♪「鬼の頭を切り落とし」・・・わらべ唄との符合が意味するものは・・・?!
そして、大胆にして狡猾な犯人の正体は・・・!?

「食えない」探偵、石動はこの事件の謎を解き明かすことができるのか?  

わらべ唄になぞらえた殺人か・・・ かまいたちの夜2を思い出すな。
奇跡の泉という存在も、恐らく物語に深く関わってくるんだろう。

大体において、わらべ唄というのは何かを喩えて伝承するものだからな。


そう、この物語の魅力はまさに、殺人事件の謎に加え「わらべ唄の謎解き」にある。

この物語では殺人事件が起こるからと言って、血生臭い描写がされたりすることはない。
むしろ巷の少年漫画のノリで淡々と殺される感じなので、ハラハラする面白さはない。

しかし、先人達との知恵比べの物語として見たとき、それは胸躍る「推理」小説へと一転する
単なる殺人の伴奏ではないその意図に気付いたとき、先人達の・・・
否、作者の技量に感服すること請け合いであろう。

タイトルがそれを全く想像させないだけに、損をしている作品だと思う。


確かに、表紙も「酪農家の話?」みたいな誤解を招きそうだな・・・。

美濃牛というのは恐らく「ミノタウロス」のことを暗示しているんだろう?
「牛鬼伝説殺人事件 奇跡の泉のわらべ唄」とか大々的に謳ってもいい気がするな。


確かに言えている。 しかし読了してから振り返ると・・・
実はこのタイトルにも「なるほどな」と思わせるところがあるのだ。
「ミノタウロスの伝説とそう繋げたか・・・」といった感じにな。

同じように、実はこの物語には数々の引用がなされているし、 他の作品から影響を受けたであろう箇所も多数見かける。
これらがあからさまに提示されながら、作品中で浮いた形とならないのは、 それぞれの作品や伝承について相当のリスペクトがあり、かつ深い理解があるからだ。

この点に関し、作者の博識に頭が下がる思いがした
作者自身は不勉強な人間ですと謙遜しているが、相当な読書家であるのは間違いないだろう。


「何となく似てしまった劣化作品を作る」よりも、「堂々とオマージュして原作を超える」 ことの方が何倍も難しいですものね。
偽ブランド品を悪びれもなく売り出したりしている余所の国にも見習わせたいくらいです!


「表面を盗むのではなくて、内面を盗め」とはよく言ったものだな。

これで「チーム・ゴルボンズ」は、

人類の叡智を、また一つ獲得したッ!!

うむッ!!

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