歌野晶午 「長い家の殺人」

 ■ 長い・・・家の殺人。 若干冗長、もの凄いトリックを夢見ると失敗する。 ■

「コロンブスの卵」ばりのトリック・・・ しかも推理小説の巨匠、島田荘司氏が絶賛・・・

そう評されているのだから、推理小説好きとして読まぬ訳にいくまい。
歌野晶午著 『長い家の殺人』 を紹介する。

おれの独断と偏見によると、楽しみを享受できる読者はこのような感じだ。




謎解き好きなら読んどけ、ってくらいの小説なのだな。
恐らく、「劇的ビフォーアフター」って番組で紹介されていそうな細長い家で 殺人が起こるんだろう。

・・・それで、どういう話なんだ、村田?


うむ。 簡単に説明すれば、こうだ。

ラストライブに向けた練習のため、ゲミニー・ハウスにやってきたバンド、 「メイプル・リーフ」の5人。
カメラマン役の市ノ瀬の青春も、個性的なメンバーが集まるこのバンドと 共にあった。

一直線に部屋を並べた、縦に長い構造をしているゲミニー・ハウスの宿泊棟・・・
そこで発生した殺人事件は、奇妙な様相を呈していた。
死亡時刻より後にも関わらず、歩き回っていた死体と思しき姿。
そして宿泊棟をいくら探し回っても見つからなかった死体が、 翌日 突如として部屋に現れた・・・?!

幽霊の存在を示唆するかのような事件は、それだけで終わらなかった。
ラストライブの最中、連続殺人を象徴するかのように浮遊する人魂が目撃される・・・。


被害者の残したダイニングメッセージの意味は?
写真に残った、重大な手掛かりとは・・・?!


アイレ・ミット・ヴァイレ・・・ ビートに乗せた推理が、全ての謎をねじ伏せるッ!!  

なるほど・・・ 長い家という舞台で、様々な超常現象が起こるのだな。
そこに、シンプルな舞台であるからこそ可能なトリックがあると・・・。

なるほど、これは面白そうな匂いがするな・・・!!


ああ、確かにそうだな。 簡単な舞台で鮮やかな推理を希望する所だ。

だが正直、メイントリックが密室のトリックとするなら、期待外れもいいとこ ・・・というのが、おれの感想だ。
「まさか、アレではないよな・・・?」と思ったトリックがそれだった。
コロンブスの卵のトリックと称されているが、
「誰もが思いつくが、これではトリックとしていかにも弱いから、誰も書かなかった」
というのが正解のように思えてならない。

そのためトリックの補強のために色々なエピソードが挿入されているのだが、 どれも中途半端な印象がある。
贅肉を取ればこの物語は完全に半分のボリュームで済ませられる ことが、読めば分かるだろう。
おれ個人としては、かの島田荘司氏が賞賛したというのが、 このトリックではないと思いたい。


あらら・・・ まあMr.村田は推理小説を読みつけてますから・・・

でも確かに、トリックが読者に読まれてしまうのは頂けないですね。
その効果を狙っているなら話は別ですけど。


その通り。 では、どこにこの小説の魅力があるのか? それは・・・

作者が後書きにも残しているが、 随所に相当頑張った感じが漂っている点だッ!
いや、「アイデアが詰め込まれている点」と表現した方がぴったり来るな。

例えば随所にある伏線だけ取ってみても、ずるい感じがしないように うまく馴染ませてあること然り。
鍵となる暗号の謎も、若干の不満は残るがよく練られていること然り。
こうした、「トリックだけが推理小説じゃないんだぜ?」と訴えるような 姿勢はとても好感が持てる
中でも特に、作者の遊び心を反映した物語自体の仕掛けが非常に面白い
この仕掛けには膝を叩いて、「やられた!」と思ったな。

そう、島田氏が絶賛したのは、奇抜な神業トリックなどではない・・・
この筆者の試み、態度に対してと考えて間違いあるまいッ!!


トリックという職人技よりも、勤務姿勢が評価されて高支持を得ている・・・!
流石はデビュー作・・・ 企業も、小説家も新人の評価は「やる気」なのだな。
絶賛には技巧は後から身に付けてくれという激励が込められている、と。


その通りだ。 これで「チーム・ゴルボンズ」は、

人類の叡智を、また一つ獲得したッ!!

うむッ!!

inserted by FC2 system