石崎幸二 「日曜日の沈黙」

 ■ 笑いと、推理のハイセンス・コラボレーション ■

「究極のトリック」・・・推理小説ファンならば誰しも、是非味わってみたいと思うだろう。

石崎幸二著 『日曜日の沈黙』は、それに笑いを交えて披露するという作品だ。
一種「残酷さ無しの甘口推理小説」という感じだが、スパイスは効いているし、コクもある。

おれの独断と偏見によると、楽しみを享受できる読者の傾向はこのような感じだ。




ふーん、確かに面白そうではありますね。
究極のトリックといっても、厳然たる時刻表トリック・・・とかではないのですね。
甘口のオモシロ推理小説、というところに何となく惹かれます。

で、一体どんな話なのですか?


簡単に説明すれば、こうだ。

高原に建てられたホテル、『ミステリィの館』・・・
そこは若くして亡くなった名推理作家、来木来人の邸宅を移築したものだった。
彼は生前、「究極のトリック」を考案したと言い残していた。

そこで催されるイベントのモニターとして、石崎とミリア、ユリの三人にも招待状が届いた。
人里離れ、孤立されたその邸宅にて、イベント主催者の黒田は告げる。
この館で「謎」を解いた者は、かの名推理作家の未発表作を目にできる・・・
しかし何が「謎」であるかは、自分で考えよ、と。


「究極のトリック」と思しき未発表作に、色めき立つ参加者達・・・
しかしその中で、突如「殺人事件」は起こった!!

更にそれは、徐々に一つの考えを導くように、立て続けに発生していく・・・!?

これこそ、「謎」を解くヒントなのか・・・!? それとも・・・!?  

なるほど、割とありがちな設定だが、「謎」まで自分で考えろというのが新しいな。
謎が謎を呼ぶ展開ってやつか。

その最上級の謎が、「究極のトリック」・・・ なかなか面白そうだ。


うむ。 だがこの作品の一番の魅力は、実はストーリーの斬新さではない。
プロット然り、登場人物然り、小道具の使い方然り、ギャグセンス然り・・・
どれを取っても、非常にうまい見せ方をしているなと感じられること
だ。

例えば、探偵が推理を進めていく場面――。
推理小説において、ここは見せ場だ。 カッコよく仕上げるべき所だろう。
ところが石崎含め登場人物達の推理は、 よく練られた漫才を見ているかのようだ!
かつて、これほどまでに面白い探偵役(たち)が居ただろうか?! と思うほどに。

こういった、「センスが要求されるところで、あえてナンセンス・・・!」という 感触が心地いいのだ。
肩の力を抜いて読み進める内に、謎解きの楽しみがゆったり味わえる。


あ、なるほど、だからこそ「甘口オモシロ推理小説」という訳ですね!?

確かに、推理小説の謎解きって、クールな探偵がキザっぽく決める絵が思い浮かびます。
それをあえて覆すことが、逆に謎解きの楽しみを増幅している・・・!
塩がスイカの甘さを引き立てるように・・・

推理小説での「味の相乗効果」ですね!


上手いことを言う。 これだけの「オモシロネタ」を集めながら、良くまとまっている・・・ そう思った。

が、それゆえの弱点は、シリアスな展開になるとちょっとパワー不足かな?と思われる点だ。
特に『究極のトリック』という設定が、後に来るほど足枷になってしまっていると思う

つまり、その名に見合うだけのトリックを登場させざるを得なくなっているという意味でな。
文言としては『心揺さぶるトリック』『胸に響くトリック』とかで十分で、もっと奔放な 展開にしても良かったんじゃないか、というのが感想だ。

まあ・・・ 非常に明快な登場人物達の、明快な物語だ。 そんなことは百も承知で、 「面白ければそんなのどーでもいいじゃない!」 と暗に主張しているのかも知れんがな。


「上等な寿司屋は、寿司が上等であればいい。
出てくる箸からアガリから、全て上等にしようと頑張んなくていいんだぞ!」
・・・とまぁ、そんな感じか。


ま、そんなところだ。 これで「チーム・ゴルボンズ」は、

人類の叡智を、また一つ獲得したッ!!

うむッ!!

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