五十嵐貴久 「リカ」

 ■ ネット上の悪意が実生活に「浸透」してくる恐怖はいかに!? ■

インターネット上にはびこる悪意が形を持ち、実生活に姿を現したら・・・

五十嵐貴久著 『リカ』は、そんなサイコサスペンス作品だ。
決して、お人形がおそってくるような話ではないので安心して欲しい。

おれの独断と偏見によると、楽しみを享受できる読者の傾向はこのような感じだ。




ネット上の悪意って言うと、物凄く怖いイメージがあるが・・・。
何だか、それほど怖い話じゃなさそうじゃないか。

・・・これはどういう話なんだ、村田?


簡単に説明すれば、こうだ。

印刷会社勤務の本間貴雄は、後輩の坂井の薦めにより出会い系サイトに登録する。
彼には妻も娘もあったが、日頃の満ち足りなさから次第にその魅力に取り付かれていく。

相手を惹きつける文の書き方から、相手のプロフィールの嘘の見分け方まで・・・
それらを身に付けるまで「歴戦」を経た本間の下に、ある日女性からメールが届く。
彼女の名前は、『リカ』。

内気な看護婦という彼女の女性像に本間は胸を高鳴らせるが、 それこそが悪夢の始まりだった。
連絡先を教えた途端、彼女の態度が豹変する・・・!


四六時中電話を鳴らし続ける彼女は、「ストーカー」顔負けの執拗さで、 本間にコンタクトを取り始める・・・!!
そんな中、かつて彼女に関わった男性が惨殺された事実が判明する・・・!!


彼の運命やいかに・・・?! 彼は『リカ』の魔手から逃れることができるのかッ?!  

なるほど、出会い系サイトで知り合った女性に、殺人という恐ろしい経歴ですか・・・。
でも、ろくでもない出会い系サイトって、暴力団の資金源になってますからね。
地の果てまで強請り続けてくる、実際の出会い系サイトの方が怖かったりしそうです。
そう考えると、この小説があまり怖くないというのも頷ける気がします。


その通りだ。 「事実は小説より奇」の言葉通りと言えるな。

まずこの作品の良い所は「IT社会ならではの怖さ」を出せているところだ。
これは、自分の感じている怖さを相手と共有できないことと言うのが一番判り易いだろう。
ネットの普及により世界中を身近に感じられるようになったが、 端末の前に各個人が一人でいるようになった。
従って、何か足元がすくむ様な事態が起きたとしても、すぐ横に助けてくれる人がいない

この物語の主人公のように、不倫目当ての出会い系サイトでのトラブルであれば尚更だ。
怖さを感じているが、自分にも後ろ暗いことがあるので相談できない・・・
こういった事態に陥りやすい。
以前、Winnyで個人情報が大量に流出していたが、流出させてしまった当人達も 同じ怖さを味わったはずだ。
この「一人で抱える恐怖」について、非常によく書けていると思った。


確かに、誰かが一緒だと怖さというのは半減しますものね。
「割り勘のできない怖さ」・・・ とでも言うべきかな。

個が重視されるIT社会では実際そんなケースが多いような気がします。


うむ。 だが、これは身の毛もよだつような怖さと組み合わせてこそ、意味があるものだろう?

この作品の勿体無い点は、このサスペンス部分が決定的に怖くない事だ。
恐怖がじわじわと迫ってきて、追い詰められていく緊迫感が全くない。

これは、リカが早い時期に姿を現してしまうことに起因していると思う。
例えば幽霊も、得体が知れないから恐れるのであって、その姿形を恐れるのではない
従って極論を言わせて貰えば、生身のリカを登場させる必要はないと思うのだ。

『ネット上に確実に存在するが、どこの誰かは判らない・・・
だが、そんな誰かは電話とネットを駆使し、自分を探し当て殺そうとしている・・・?!』
といった感じのストーリーの方が、より恐怖が引き立って良かったのにと思うのだ。
そうすれば、この物語のようなありきたりなオチにもなるまいに・・・という印象だ。


例えばリカを名乗る人間は一人に見えたが「理科学愛好家」という団体だった。
四六時中電話が鳴り続けてた?
ああ、実は団体のメンバー10000人が入れ替り立ち替り勧誘の電話を入れていたんだよーん・・・

なんてストーリーなら、違った意味でも面白いだろうな。 ・・・コメディ小説になるが。


よく判っているではないか、竹居。 よし、これで「チーム・ゴルボンズ」は、

人類の叡智を、また一つ獲得したッ!!

うむッ!!

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