薬丸岳 「天使のナイフ」

 ■ 真の「校正」かくあるべし・・・凄烈なメッセージ ■

加害者の少年が異常者を脱し、真っ当な生活が出来るようになればそれでいいのか!?

報道されている「少年犯罪特集」のような企画がいかに断片的なものかが判る・・・
薬丸岳著 『天使のナイフ』は、そんな物語だ。

おれの独断と偏見によると、楽しみを享受できる読者の傾向はこのような感じだ。




少年法は犯罪を犯した少年を、更正させる目的で保護している。
でもそれは、その年齢層を無法地帯にしかねないという危うさをも持っている・・・。
小説というメディアを通じて、少年法に対する疑問点を説く・・・いいですね!!

ストーリーを紹介して頂けますか、Mr.村田?


うむ。 簡単に説明すれば、こうだ。

愛する妻を殺害され、失意のどん底に落とされた桧山。
だが、妻を殺害した犯人は中学生の少年三人組だったために、 少年法によって裁くことができずにいた。

刑法41条は、14歳に満たないものの行為は罰しない、とあるのだ。
「国家が罰を与えないなら、自分の手で犯人を殺してやりたい」・・・
しつこく絡むマスコミに、桧山はこう漏らした。

事件から4年後、娘の愛美のお陰もあってようやく立ち直り始めた桧山の近所で、 少年の内の一人、沢村がナイフによって刺殺されるという事件が起きる。
事件当時アリバイがなく、警察に容疑者としての目で見られることとなる桧山・・・!


だが一方で、彼は知りたいと思った・・・
何故、沢村は被害者とならねばならなかったのかをッ!!


そして生前に沢村の残した言葉・・・ "本当の贖罪" の意味をッ!!  

少年法に守られ、罰を下されない人間が殺害された。
真っ先に疑われるのは、当然復讐したいと願っていた少年犯罪の被害者だった・・・。

不条理極まりないが、現実問題としてはリアルだな・・・


うむ。 そして実際に有り得る設定だからこそだが、この作品のいい所は、
少年法のあり方とは?真の更正とは何か?という強いメッセージが伝わってくる ところだ。

要は、加害者の更正と、被害者の心の傷の治癒に相関がないことに問題があるのだ。
そう、現在の少年法は、加害者の少年の人権を擁護するが 被害者の気持ちを汲み取るようなものにはなっていない。
言わば、尊重されるべき「被害者の人権」は軽視されているのだな。

そんな少年法の矛盾を、被害者・加害者両方の視点から語る切り口が上手いと思った。
特に被害者が舐める辛酸について、多くを語っているのがいい。
被害者側が時間も費用も莫大に費やして責任を求めようとも、加害者側には 無責任という逃げ道がある。
疲弊しきった被害者を、視聴率や物珍しさのために騒ぎ立てる世間が いかに苦しめるのかよく判るというものだ。


被害者にしてみたら、少年に殺されようが大人に殺されようが同じだ。
かといって、犯罪を犯したら誰でも同じ扱いにすればいいじゃん、 というのも極論過ぎる気がするしな。
大人と子供とでは、やはり背負えるものが違う。

そこに一つの解決を見出そう・・・ と、そういう訳だな。


解決と言っては大げさだが、「これが更正で、これが罰だ」という主張がある。
現在の少年法は理不尽だと主張するだけなら誰でもできるが・・・
この点まで踏み込んだ話は日頃から考えていないとなかなかできない。

被害者を傷つける世間の無責任さが、実は加害者に対する 一番の罰にもなり得る。
そのことをこの物語は教えてくれている
のだ!!
実は、一番怖いのは極刑の判決でも、被害者の復讐でもなく・・・
大きなうねりとなって襲い掛かってくる、「世間」なのだと!!

プロットが多少できすぎていると感じるが、この点がとてもいい具合に まとめられていると思う。
少年法改正の教科書として欲しいくらいにな。
この結論に至るための小道具の使い方も上手で、主張の明快さに一役買っている。


なるほど、世間は一度食いついたら地の果てまでも放してはくれないからな。
そして、誰か一人の主張が何百倍、何千倍にもなって押し寄せてくる。

確かにこれ以上の恐怖はない・・・ 一向一揆みたいなものだものな。


美味しい所を持っていったな、竹居・・・。 これで「チーム・ゴルボンズ」は、

人類の叡智を、また一つ獲得したッ!!

うむッ!!

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