黒田研二 「ウェディング・ドレス」

 ■ 文字による映像マジック、すれ違う二人の愛の行く末は・・・? ■

論理的に一つずつ・・・ではなく、「ビジュアルに」謎が解ける推理小説もあっていい。

黒田研二著 『ウェディング・ドレス』は、まさにそんな作品だ。
・・・殺人が起きてドレスが血塗れといった部分がビジュアルな訳ではないので安心して欲しい。

おれの独断と偏見によると、楽しみを享受できる読者の傾向はこのような感じだ。




謎解き好きにも結構お薦め・・・というのは先ほどの理由からだな。
そして、感情移入もしながら読めると。 なかなか面白そうではないか。

・・・これはどういう話なんだ、村田?


簡単に説明すれば、こうだ。

結婚式当日、忘れた指輪を取りに戻った婚約者、ユウ君。
教会で母の遺したウェディング・ドレスに身を包み、彼を待つ祥子に告げられたのは、
「彼が事故で病院へ運ばれた」という知らせだった。

病院行きの車に飛び乗るも、それは彼女を誘拐するための巧妙な罠だった・・・!
身も心もずたずたにされても、彼女はユウ君の無事を信じ、単身調査に乗り出す!!

一方で、指輪を手に戻ると教会に祥子はいない。
「裏切られたのだ」と伝えられるユウ君。
彼も単身調査に乗り出すが、次第にその心は揺らいでいく・・・!


気持ちも行動も、次第にすれ違っていく二人の愛の行く末は・・・?!
この破壊工作は、誰が何のために?!


そして、幾重にも絡み合う謎が解けるとき、明らかになる衝撃の事実とはッ?!  

片や誘拐され死亡を告知され、片や裏切られたと誤解・・・
幸せの絶頂だからこそ、お互いの気持ちがすれ違うのですね。

勿論最後に二人は再会できるのでしょうけど、そこに待っているのは 大団円か、それとも悲しい結末か・・・ 気になります。


そうだな。 勿論二人は再会する・・・ お互いの誤解が解けぬままで。

信じる者と、信じられながら疑う者。
そんな二人の境遇から、感情移入して最後まで読み通してしまうことだろう。
それくらい続きが気になって、スピード感のある物語であることは間違いがない

「平行世界」という言葉が随所に現れるが、「〜たら」「〜れば」ばかりの二人の すれ違い方はそれを思わせる。
そして、いくつもの平行世界の物語を一つの真相へと収束させる手腕も見事だ。

唯一惜しむらくは、若干文章が軽いと思えることで、二人の「辛さ」の表現が弱いかな、 と感じてしまうところだ。
二人の舐める苦境について、もっと描き混んでも良かったのではないかと思った。


なるほどね。 特に日本人は、判官贔屓(ひいき)で弱い立場の人間を守ろうとする。
心なき第三者によって結婚式を台無しにされた二人を応援したくなるってことか。

そんな二人へのダメージが際だてば際だつほどその度合いも増すというものだが、 それについては思ったほどではない・・・と。


うむ。但しそれは恋愛ドラマとして見た場合の話であって、推理を中心に考えると毛色が異なってくる。
そうであるからこそ、メフィスト賞受賞という輝かしい実績があるのだろうからな。

この作品は、謎解き部分が非常に明快でビジュアルであるところに、特徴がある。
殺人のトリックしかり、ドレスに秘められた謎しかりだ。
別に挿絵があるわけではないが、そう・・・その様子が目に浮かぶように判るのだ。

従って、謎は文字を追うことで徐々に解かれるのではなくて、一枚画を見るように一気に解ける
これは、「見える」とはどういうことか徹底的に考え抜いたからこそ可能な芸当だろう。
「映像マジック」・・・そんな言葉がしっくり来ると感じた。


なるほど、テキストで画像データ・・・或いは動画データを表現したようなものですね?
文字列が作り出す「映像美」、なかなか新しいと思います。
トヨタ自動車じゃないけど、「見える化」と言っていいかな。


そうだな、文字列という映写機をして、それは脳のスクリーンに大写しにされる・・・と。
よし、これで「チーム・ゴルボンズ」は、

人類の叡智を、また一つ獲得したッ!!

うむッ!!

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